編集後記(設立60周年記念)|東京地図研究社|地理空間情報で未来社会を切り拓く

激動60年の軌跡HISTORY

編集後記

大海原に向けた新たな旅立ち

 アナログ時代の名残がまだ色濃く残っていた2000年代半ば、突如登場したGoogle Mapsで地図業界にも激震が走ったことは記憶に新しい。創業以来、1/25,000地形図の整備や、航空写真図化、大手地図出版社の校正作業など、脈々と受け継がれてきた製図系業務が、こうしたWebマップを軸として大きく変容し始めたまさにその初段階に、縁あってこの会社へ来ることになった。
 当時、国土地理院や大口顧客の業務が順当に受注できていたことで、変革の必要性に気づきにくい状態であったことも要因であろう。しかし地図に留まらずあらゆる情報がデジタルに置き換わり、ものすごいスピードで情報が拡散していく時代において、やや牧歌的とも言える社風のままでは近い将来立ち行かなくなることは自明であった。
 「我々は変わらねばならない」──。
 その一心で会社改革に取り組んできたが、救いだったのは想いを共有する同志が少なからずいたことだ。彼らの献身的なサポートを頼りにハード・ソフト面、ありとあらゆる部分から少しずつ、だが後戻りしないように「改善」を断行してきた。古参社員の批判に晒されたり、サボタージュ的な対応を受けたりと、数々の反発や抵抗もあったが、着手して半年から1年後に必ず結果を出すことで、徐々に雰囲気は変わっていった。
 あれから16年半。この間に入社した社員が今や中堅や幹部クラスを担うまでになった。彼らはある意味、デジタルネイティブ世代でもあり、アナログ時代からの架け橋を担った我々とはまた違うセンスを持っている。今後は彼ら自身が看板となり、歴史となっていくだろう。
 設立60周年を迎えた今、当社は確実に生まれ変わりつつある。職人を大量に抱え日々社内で定型業務をこなす工場的スタイルから、顧客のありとあらゆるリクエストに応え、身の丈に合ったソリューションを提供し続ける地図・GISコンサルタント(シンクタンク)企業への変貌。この20年はその助走期間であったのかもしれない。
 はたして次の20年、40年にどのような世界が待っているのか。感染症、少子高齢化、気候変動、エネルギー問題、テロ、戦争、巨大災害といった脅威や災厄は、我々に常に攻めかかってくる。一方で、人工知能、ドローン、XR、自動運転、量子コンピューターなど、革新的技術は日進月歩で進化しており、想像だにしなかったサービスもこれから続々と出てくるだろう。
 つまり、この時点で次の20年、40年に思いを巡らしたところでさしたる意味はないのだ。世界同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災や新型コロナウイルスパンデミック、そしてロシアのウクライナ侵攻を10年前に正しく予見できた人などいなかったのだから。大切なのは、何が起きるか分からない大海原の中で突然巻き起こる荒波にもしぶとく、そしてしなやかに乗り越える「“シン”の強さ」を持ち合わせておく、ということである。そのための基盤作りはこの20年で概ね完了したと自負している。
 “その時”、「地図」「研究」という社名を掲げた当社がどのように社会の中で存在価値を見い出していくのか? 60年に渡って受け継がれてきた羅針盤を胸に秘め、行く先を決めるのは次の世代の社員たちである。(G.I)

あとがき

府中本社にて  東京地図研究社設立60周年記念サイトは、2002年に発行された「東京地図研究社40年史」の内容を再編集し、現在までの20年間の内容を追加したものです。これほどまでに多くの内容と地図への熱意を感じる記念サイトを作成できたのは、東京地図研究社の礎を作った諸先輩方、そして現在一緒に頑張っている仲間たちの協力によるものです。まずはご協力いただいた全ての方々に心よりお礼を申し上げます。
 編集作業を行う中で、新入社員時代に実際に墨を使用して製図をする作業を見たことを思い出しました。2022年4月に入社7年目を迎える私は、既に新入社員時代から地図はGISで作製することが当たり前になっていました。細やかな手先の動き、すっと描かれた滑らかな曲線、図面に対する真剣な眼差しはまさに"職人技"であり、作業をしていた方から技術者としての誇りを痛いくらいに感じたことを覚えています。当時、私も仕事に対して真剣に取り組み先輩方のような誇りを持った技術者になりたいと強く思いました。
 昭和から令和になり、手作業からPC主体の作業へと仕事の仕方が大きく変わった今も、"技術と誇り"は私たちの根底にずっとあるものだと思います。編集作業を通して強く感じたことは、東京地図研究社はかつては地図製作のプロ、現在は地理空間情報のスペシャリストとして、自分たちの技術に誇りを持ち、そして縁の下の力持ちのような存在として社会に貢献し続けているということです。私たちは時代が変わっても、地図への情熱を持ち、常に新しいものに挑戦し走り続けていきます。東京地図研究社が地図業界、そして日本社会のさらなる発展に貢献できるように祈念し、あとがきとします。(N.A)
 (令和4年3月吉日 東京地図研究社設立60周年記念事業事務局)