編集後記
大海原に向けた新たな旅立ち
アナログ時代の名残がまだ色濃く残っていた2000年代半ば、突如登場したGoogle Mapsで地図業界にも激震が走ったことは記憶に新しい。創業以来、1/25,000地形図の整備や、航空写真図化、大手地図出版社の校正作業など、脈々と受け継がれてきた製図系業務が、こうしたWebマップを軸として大きく変容し始めたまさにその初段階に、縁あってこの会社へ来ることになった。
当時、国土地理院や大口顧客の業務が順当に受注できていたことで、変革の必要性に気づきにくい状態であったことも要因であろう。しかし地図に留まらずあらゆる情報がデジタルに置き換わり、ものすごいスピードで情報が拡散していく時代において、やや牧歌的とも言える社風のままでは近い将来立ち行かなくなることは自明であった。
「我々は変わらねばならない」──。
その一心で会社改革に取り組んできたが、救いだったのは想いを共有する同志が少なからずいたことだ。彼らの献身的なサポートを頼りにハード・ソフト面、ありとあらゆる部分から少しずつ、だが後戻りしないように「改善」を断行してきた。古参社員の批判に晒されたり、サボタージュ的な対応を受けたりと、数々の反発や抵抗もあったが、着手して半年から1年後に必ず結果を出すことで、徐々に雰囲気は変わっていった。
あれから16年半。この間に入社した社員が今や中堅や幹部クラスを担うまでになった。彼らはある意味、デジタルネイティブ世代でもあり、アナログ時代からの架け橋を担った我々とはまた違うセンスを持っている。今後は彼ら自身が看板となり、歴史となっていくだろう。
設立60周年を迎えた今、当社は確実に生まれ変わりつつある。職人を大量に抱え日々社内で定型業務をこなす工場的スタイルから、顧客のありとあらゆるリクエストに応え、身の丈に合ったソリューションを提供し続ける地図・GISコンサルタント(シンクタンク)企業への変貌。この20年はその助走期間であったのかもしれない。
はたして次の20年、40年にどのような世界が待っているのか。感染症、少子高齢化、気候変動、エネルギー問題、テロ、戦争、巨大災害といった脅威や災厄は、我々に常に攻めかかってくる。一方で、人工知能、ドローン、XR、自動運転、量子コンピューターなど、革新的技術は日進月歩で進化しており、想像だにしなかったサービスもこれから続々と出てくるだろう。
つまり、この時点で次の20年、40年に思いを巡らしたところでさしたる意味はないのだ。世界同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災や新型コロナウイルスパンデミック、そしてロシアのウクライナ侵攻を10年前に正しく予見できた人などいなかったのだから。大切なのは、何が起きるか分からない大海原の中で突然巻き起こる荒波にもしぶとく、そしてしなやかに乗り越える「“シン”の強さ」を持ち合わせておく、ということである。そのための基盤作りはこの20年で概ね完了したと自負している。
“その時”、「地図」「研究」という社名を掲げた当社がどのように社会の中で存在価値を見い出していくのか? 60年に渡って受け継がれてきた羅針盤を胸に秘め、行く先を決めるのは次の世代の社員たちである。(G.I)
40年史 編集後記 ①
私は昭和37年の1月に宮崎から上京し、測量・地図製図に携わるようになって40年が経った。東京地図研究社の社員となったのは、昭和45年のことだったが、私は37年の暮れから、塚田現会長の製図の哲学と人柄に惹かれていた。また、私事になるが、私の妻は創業時の西荻窪時代からお世話になっていた。そんな私がこの40年史編纂作業に少しでも役立てたことは大変な喜びであり、再発見の連続であった。
一緒に頑張った仲間、協力してくれた人々、そしてご指導いただいたお客様を、当時の情景とともに鮮明に思い出す。東京地図研究社が今日あるのも、その方々のおかげである。私自身も塚田会長はじめ諸先輩、そしてお客様によって鍛えられ、現在がある。この40年の間に、私は地図製図技術の変遷に立ち会い、常に新しいものに挑戦をしていた。
この40年史を編纂した今、私が強く思うのは若い世代への期待である。東京地図研究社は、40年の技術の蓄積と地図のプロとしての誇りがある。その誇るべき実績と伝統を持って若い世代が中心となり、東京地図研究社が地図業界のさらなる発展に貢献できるように祈念して、編集後記とする。(東京地図研究社40年史 K.N)
40年史 編集後記 ②
歴史とは積み重ねである。40年間たゆまず積み重ねたもの、それは一日一日の努力であり、一人一人の情熱であり、そしてもちろん一つ一つの技術でもある。
ローマは一日にしてならず。本書の編集作業に携わる中で、初めて東京地図研究社の生い立ちや発展に触れ、塚田会長をはじめとした諸先輩方の功績を知ることとなった。そして温故知新の言葉どおり、何もかもが自分にとっては勉強になることであり、社史の編集という作業以上に大きな財産を得ることができたことは大きな喜びである。これも今回ご協力頂いた多くの皆様方によるところであり、心よりお礼を申し上げる次第であります。
さて、本書の発行を一つの区切りとして、私たちはまた未来へと歩み続けることになる。地図作成をめぐる技術が時代とともに移り変わっていく中で、40年の間培ってきた地図のプロとしての高い意識と、東京地図研究社の一員であることの誇りを忘れずにこれからも地図にかかわっていきたい、そんな思いを一層強くした。そしてそのことで日本の地図業界の発展に寄与することができれば、それこそが本書の編集に携わってきた大きな意義であると言えよう。
さあ、また歩き始めよう。(東京地図研究社40年史 H.E)