21世紀 ―多様なビジネスへの挑戦―(設立60周年記念)|東京地図研究社|地理空間情報で未来社会を切り拓く
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激動60年の軌跡
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21世紀 ―多様なビジネスへの挑戦―
21世紀 ―多様なビジネスへの挑戦―
DTPによる地図デザインの導入
当社でDTP系業務に参入したのは2008年頃、Adobe IllustratorやPhotoshopをはじめとするグラフィックソフトに造詣が深く、デザインセンスも持つ美大卒のスタッフが入社したことがきっかけだった。最初は会社案内やHPに挿入するイラスト、チラシの案内図などを手掛けていたが、その後、ハザードマップ作成業務を大量に受注することとなり、対外的なクオリティが要求される業務を本格的にスタートさせた。
初の受注案件では、とにかく手を動かしての試行錯誤が続いた。素材であるGISデータをIllustratorで扱えるデータ形式に変換し、地図調製を行い、デザインを施して印刷に耐えうる成果へ仕上げていく。作業フローだけだとシンプルに感じるかもしれないが、成果が図版として可視化されると「もっと見やすく!」「もっと文字を大きく!」といった要望が顧客から際限なく寄せられる。経験を積んだ現在なら、要求に対し対応する/しないを判断して交渉も可能だが、当時はとにかく全てを受け入れ力業で対応したので残業時間もみるみる膨れあがっていき、担当者は酷く苦労することになった。
それでも、多くの案件をこなして場数を踏むことでDTP業務の勘所を掴むことができ、社内でも複数名のデザイナーが育って一通りの作業体制が確立していった。ハザードマップのみならず、バリアフリーマップや当社の会社広告制作などにそのノウハウを応用し、様々な成果物を作成することで業務の幅も広がった。
一方で、印刷業務ならではの後戻りできない怖さが付きまとうのも事実である。座標でデータを管理するGISと異なり、Illustratorで作った地図は「ただの絵」なので、気を抜くといつの間にかオブジェクトの位置がズレていたりする。これを防ぐには目視で何度も検査をするしかなく、刷り上がった最終成果物を見るのは嬉しいような怖いような、緊張を伴う“儀式”でもあった。
東日本大震災をはじめとして大規模な災害が多発したことでハザードマップの存在が見直され、作成ニーズは常に存在する。ただ、それを紙面で提供することが前提だった時代はとうに過ぎ、これからはスマートフォンなどで気軽・手軽に閲覧できるというアプローチにも取り組んでいく必要がある。絵として作り込むよりも、データを迅速に展開・更新するという考え方はある面で正しいが、プラットフォームが変わってもデザインとは飾りつけではなく機能の整理であることは変わらない。まだ10年強と歴史は浅いが、ノウハウは様々な形で受け継がれ、デザイン力は当社の武器の1つとなっている。
事業内容
GIS製品販売事業への参入と拡大
ESRIジャパン株式会社の正規販売代理店としてスタートしたのが2005年、このときの売上実績は自社導入した製品が主体で、わずか数百万円レベルであった。そこからなんとか顧客を増やそうと、知り合いの企業に導入を直談判するところから始め、GISを使いそうな組織や団体へのダイレクトメールを送ったり、メールマガジンによる広告を出したり、HPのヒット率を少しでも上げるため情報量を増やしたり、あの手この手の営業活動を実施した。
また、ArcGISシリーズ関連のソフトウェア製品だけではなく、業界各社と交渉してデータコンテンツやハードウェア(GPS機器)の取り扱いも開始。同時に、自社のオリジナル製品として小〜中縮尺用背景地図パッケージや、日付指定ができる市区町村界の販売も始めた。
それでも数年は売上1000万円の壁すらも越えられず毎年悔しい思いをしていたが、徐々に努力が実を結び始め、2008年頃にはついに2000万の大台を突破。以後、毎年右肩上がりの実績を得られるようになっていく。同時期に、周囲の懸念を押し切ってMapInfoシリーズの販売も開始。2011年には衛星画像の取り扱いも始めた。
もともと1名+αで細々と始めた製品販売事業だが、その後は社員とアルバイト数名が常時対応し、お客様のあらゆるご要望に応えられる体制も整えられてきた。他社のGIS製品をただ売るだけではなく、その技術的サポートや導入コンサルティング、その後の運用や開発についても懇切丁寧に対応し続けることで、多くのリピートオーダーを受けるようになり、担当者も自信を深めていった。このようにして、ソフトやデータなど各種のGIS製品ラインナップを拡充してきたことで問い合わせは年々増加、毎日数件のオーダーを請けるまでに至り、現在では総売上の30%以上を占める当社の主幹事業の1つとなっている。
GIS製品販売
総務省テレワーク実証実験への参加
コロナ禍以後、一気に普及し当たり前のように利用されている「テレワーク」技術であるが、その先駆けとなる実証実験に地図作成分野として携わる機会をもらった。
業務は社内で顔を突き合わせて実施するものという固定観念が根強く、テレワークはもとより、在宅勤務すら実施していなかった状況下のある日、ある大手通信系のSler企業から「テレワーク」を実施する被験会社を探しているとの打診を受け、半信半疑、期待と不安が半々のまま未知なる分野への挑戦を決断した。それが、2009年度の総務省「次世代ネットワーク技術を活用した次世代高度テレワークモデルシステム実験」である。
実験にあたり、多数のノートPCやそれまで見たこともなかったサーバー等の機器など、各種のハードウェアを提供してもらい、それらは府中本社社内に設置された。一方、編集用ソフトウェアとしてはArcGIS Serverを導入、Windows Server OSと合わせて、Webサーバーの構築作業を自力で行ったが、日常的に利用するデスクトップ型GISとは全く違う知識や技術を要求され、分厚いマニュアルや難解なドキュメントに悪戦苦闘の日々が続いた。ただ、この経験が将来的にWebGISの開発業務や、テレワーク可能な作業環境を導入する際に大いに役立つことになる。
また、実験対象の業務としては、当社独自のデータ製品である「日付指定別市区町村界データ」の海岸線の更新作業とした。このデータは平成の大合併時に整備した市町村界のポリゴンデータで、合併等がある度にデータを更新し、その都度アーカイブを残したものだったが、海岸線の形状はある時期のままで固定であった。この海岸線における経年変化分の更新作業を「テレワーク」でできるか、実験題材として取り上げたのである。
被験者となる社員やアルバイトは、計5名を選任した。皆、新しい技術を体験できることへの興味を持っており、実証実験の趣旨を理解した上で自宅の回線工事まで実施するなど、大がかりな準備にも献身的に協力してもらった。編集対象となる市区町村界データを府中本社のサーバーPCに格納し、スタッフたちは自宅に持ち帰ったノートPCで専用回線を通じてリモートでサーバーに接続、WebブラウザでGISデータの編集作業を同時複数で行った。システム担当者の不安とは裏腹に、データの更新は思いのほか順調で、あたかも会社にいるかのような環境で業務にあたることができた。実際の更新作業は1ヶ月程であったが、近い将来の働き方改革を見据えた取り組みを実体験できたことは大きな収穫だったと言えよう。
本実証実験完了後、総務省主催の報告会で成果発表を行い、最終報告書においては、地図製作分野でも自営型テレワークは「可能」という結論づけられた。それから10年あまり、世間が一気にテレワーク社会へとシフトしていくことなど想像もできない時代での果敢なチャレンジであった。
平成21年度テレワークモデルシステムの実証実験(総務省 情報流通行政局)
オリジナルデータ製品
歩行者移動支援とバリアフリー社会への貢献
東京地図研究社では、障害当事者の移動支援が今後社会課題になると考え、2010年頃から社会貢献活動(CSR)の一環として福祉関連情報のGISデータ化や地図製作に取り組み始めた。最初に手掛けたのは、オルソ画像から点字ブロックの敷設状況を読み取ってGISデータ化した「点字ブロックデータ」である。この取り組みを学会等で公表したところ、福祉関係の企業や教育機関から共同研究の打診があり、都内などで共同の実証実験を行うなどして、データ活用に向けた知見を少しずつ蓄積していった。
次なるステップとして、歩行者移動支援用のGISデータとして各種バリア情報を盛り込んだ「歩道ネットワークデータ」の開発に着手。基盤地図情報から半自動的処理で歩道形状を抽出し、精度の高いデータ作成技術の開発を進めた。その結果、労力を大幅に軽減した独自の手法を生み出し、2014年より順次、都内の「歩道ネットワークデータ」の整備を始めて一部は製品化している。
その1年前の2013年、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催が決定してから、国や自治体で公共施設のバリアフリー化が精力的に進められ、各自治体でもバリアフリーのまちづくりに向けた取り組みが拡がった。しかし、基盤データ整備に労力がかかるため、効率的かつ持続的なデータ整備体制の構築が課題となっていた。
一方「歩道ネットワークデータ」においては、GIS処理だけではすべてのバリア箇所を抽出できず、情報精度を高めるためには現地調査も必要であるということが分かっていた。さらにデータのみでは市場ニーズを掘り起こせないという問題意識もあり、顧客への提案時にヒアリングを行って、ソリューションとして提供する必要性に気づいた。そこで、「点字ブロックデータ」と「歩道ネットワークデータ」を組み込み、サポートが必要な歩行者に最適な経路検索が可能なスマートフォン用の「歩道でGO!」という実証アプリケーションを開発して、データの精度検証も繰り返していた。
そのような中、2018年10月、府中市のバリアフリーマップ作成の行政提案型協働事業に参画する機会を得た。障害当事者の移動支援として「心のバリアフリー」という考え方も重要視されてきており、本事業はこのコンセプトをもとに現地調査を行い、より障害当事者のニーズに寄り添ったマップを作成することを目的としていた。2019年6月より府中市内でバリア情報について現地調査を実施。車いす利用者や視覚障害者にも参加してもらい、健常者もアイマスクをしたり車いすに乗って障害当事者の立場になることで、普段意識しなかったバリアが街中に多数あることを発見した。
また、どのようにサポートすれば良いのか障害当事者に実際にレクチャーも受けるなど、市民団体・市役所と障害当事者・福祉関係者を交えて話し合いを重ねた。このように収集した情報と当社の「歩道ネットワークデータ」を組み合わせ、約半年の作製期間を経て、2021年3月「むさし府中バリアフリーマップ」として完成の運びとなった。
「心のバリアフリー」の観点から新たな情報を取り入れたことで、より利用者のニーズに寄り添ったマップができたが、利用者に合わせた表現や提供方法で一部課題も残した。今後は、デジタルデバイスや触地図などを活用した提供方法も模索しつつ、より汎用性の高い移動支援情報を追求していきたいと考えている。
福祉への取り組み
オリジナルデータ製品
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