21世紀 ―弛まぬ努力―
世界中のGISユーザーたちと交流

Esri UCとは、7月上旬に米国サンディエゴで開催される世界最大GISのイベントで、世界各国から2万人近くのGISユーザーたちが一同に集い、約1週間に渡って様々なセッションや事例発表、展示、セレモニーが行われる。国内の関連イベントをはるかにしのぐスケールで、初めて参加する者にとってはGISの奥深さや、自身の未熟さなどを肌で実感できる期間となる。
カンファレンスは、巨大ホールにおける米Esri社のジャック・デンジャモンド社長の基調講演から始まり、見る者を圧倒する。派遣される社員は基本単独であり、見ず知らずの土地や慣れない英会話に悩まされながら、セミナーや出展をブースを一人で回っていく。ただし、日本から100名以上が参加するため、異国の地における日本人同士によるコミュニケーションも活発となり、またESRIジャパン社員によるアテンダントを受けられるので、3日目あたりには慣れてしまい、自由時間に観光へ出かけたり、懇親会やアクティビティに参加したりと、相応に現地をエンジョイできる。
さて、派遣される社員にとって最も重要な任務は、MapGalleryへの出展とその対応である。この1枚のマップを社内で作成して現地まで運んだ上でポスター会場で自ら掲示し、様々な国の参加者から予想外の質問を受け、英語(もしくはbody language)で必死に答える。とはいえ、英会話に慣れたESRIジャパン社員がサポートしてくれるため、孤独なまま窮地に陥ることもなく、会場ではアルコール飲料や軽食も提供されて実に和やかな雰囲気なので、大抵は「気合いとノリ」で乗り切れてしまう。

濃密な1週間を過ごして無事帰国したら、社内で参加報告会が行われる。ミッションをやり遂げた社員の充実した姿を見て、他の社員は誰しも「次は自分の番だ!」と決意を心に秘める。残念ながらコロナ禍以後はオンライン開催となり、海外派遣は2年連続で停止中だが、得がたい経験を次なるステップに繋げるため、今後も現地開催が再開されればUC派遣が続けられる予定である。
講師&アシスタント役を担う
2005年、工学院大学建築学部における「測量実習」の新設について、当時の建築学科で後藤治教授(現:工学院大理事長)から塚田野野子社長に打診があった。この「測量実習」は選択科目の1つで2006年度に開講された。前半が測量実習で航測会社の技術系社員が担当し、後半のGIS演習は東京地図研究社(非常勤講師として塚田社長)が担当している。なお、2021年現在はまちづくり学科の村上正浩教授が主担当となっている。
当社が担当するGIS演習の開講期間は6〜7月で、八王子キャンパスの情報処理演習室において、主に2年生が約70名ほど受講する。講義新設後の数年は「SIS」を使った演習、残りが座学と「カシミール3D」による地図作成であった。その後、2008年に「ArcGIS」が導入され、GIS実務経験が長い社員が練り直した内容がベースとなり、毎年少しずつ担当社員がブラッシュアップを重ねたカリキュラムとなっている。その他、導入として等高線の手描きの演習、Google Earthを用いたプレ実習も行う。
実際の講義では、若手社員数名が演習のインストラクターやアシスタントとして参加し、一時期は講師の代理として教壇に立つこともあった。1人1台のPCが宛がわれる実習室にズラリと居並ぶ若い学生たちから一斉に注目を浴び、思わずたじろいでしまう社員もいたが、まだやんちゃさの残る10代の学生と直に接したり、TA担当の院生たちと協力し合うなど、教育現場、利用者の立場から見たGISを体感する貴重な場となっていた。また2015年までは秋季の後期授業として、新宿キャンパスの2部学生に対して土曜夜の測量実習も担当したが、社会人学生ゆえ、より熱心で集中して演習に取り組んでいたのが印象深かった。2020年からはオンライン講義も導入され、今後は演習室の仮想PCを利用する仕組みへと進化している。
一方、社会人専修機関である大学校の講師・アシスタントも担当することもあった。2006年、国土交通大学校測量部の担当官とたまたま知己であった石川に、専門課程の講義である「GIS通論」の講師役の打診があった。受講生は、これから官公庁や自治体で専門職を担う技官であり、若いとは言え学生とはレベルが違う。そこで、受注業務の裏事情や、GISならではの失敗談、また地理空間情報が社会でどのように活用されていくべきかなどを織り交ぜ、基礎概念ではなく実務に役立つ知識を伝えるよう工夫した。国交大での講師は2013年まで、毎年1、2回の講義を担当し、2009年からは先方の要望に添ってArcGISを使った演習も取り入れた。また、2008年から7年ほど、国交大におけるGIS実習のアシスタントも請け負い、ここで得たノウハウが工学院大学における講義資料のベースとなり、見直しや改善に繋がっている。
これとは別に、2019年から芝浦工業大学においても、非常勤講師として半年間、週1回の講義を請け負うことになった。こちらは建築学部の村上公哉教授が担当され、建築や都市計画を志す3年生30~40名ほどを対象とし、最初から最後まで最新のArcGISアプリケーションを使用した演習形式である。非常勤講師2名体制で、そのうち1名は当社の中堅社員(谷口亮)が専属で担当し、GISの概要や操作・分析法をテーマとした全14回中10回目までの講義を行っている。
芝浦工業大学で初めて開講された講義であるため、一からカリキュラム作成に携わり、社内に蓄積されたノウハウをふんだんに活用したやや高度な内容も含まれる。具体的には、3次元データの可視化や人口推計、適地選定などを題材とし、専門的な建築学生向けとなるように工夫している。開講から既に3年が経過したが、学内では非常に人気が高い講義となっており、事前の募集では倍率2倍ほどになっている。
こうした大学での講義における経験や資料を活用し、昨今では民間企業におけるGIS導入のハンズオンを当社社員が担当することも増えている。
一言スピーチから社内勉強会へ
当初は、ぎこちない話し方になってしまったり、明らかに一夜漬けレベルで終わってしまったりと稚拙なスピーチも散見されたが、毎週1名ずつの発表を全員で聴講することにより発表技量が少しずつ上達し、互いの興味を知ることにも繋がって社内のチームワークも円滑になっていった。ベテラン社員からは「伊能忠敬」に関するもの、若手社員からはプログラミングに関するものなど、ざっくばらんで様々な話題提供から新しい一週間が始まる。このように何度か回数を積み重ねていくうち、社員の発表スキルは格段に向上し、自然と読書習慣も身についていった。

担当業務を紹介する者、働き方改革を訴える者、健康等の私生活に関する話題を伝える者など、プレゼン内容は多岐に渡り、ちょっとした提案から社内規程や職場環境の改善に繋がったり、アイデアがそのまま学会発表に結びついたりという事例も出てきて、発表する側も聴講する側も真剣そのもの。発表内容を全従業員に共有することで、最初は10名ほどだった参加者が数年でほぼ全社員+一部のアルバイトやインターン学生まで出席するようになっていった。こうした状況を受け、2018年からは質疑応答を合わせて1人10分間、毎回2人が発表を担当する方式に改められた。さらに2019年からはオンライン会議ツールを使い、テレワークでも参加できるようになった。
朝礼の何気ない書籍紹介が発端となって、その後10年以上続く「スピーチタイム」が生まれ、今や社内の恒例行事かつ、社員の継続的な学習習慣の源になっている。
学協会での活動とその軌跡
このなかでも測技協の活動実績は非常に多い。同協会には測量・コンサル企業などが多く加盟しており、当協会が発足した1980年から加盟して40年以上が経過した。当時、創業者であった塚田建次郎会長(故人)が評議員を務めた後、当社の2代目社長を務めた入江光一(元国土地理院、故人)が1987年から地図作成・地理情報の整備等の研究の企画・取り纏めを行うと共に、国土地理院との業界窓口としてパイプ役を務め、最後は運営委員として2001年度まで活躍した。この間、現社長の塚田野野子が機関誌に論文を投稿したり、技術発表会に参加するなどの活動も細々ながら行っていた。
2000年以降からは、デジタル時代への変革に対応できるよう一部の社員が参加していたが、世の中の技術進化は想像以上に加速していた。そこで2006年度からは測技協の技術部会や委員会に若手から中堅社員を複数名参加させ、同業他社や業界の動向を広く身につけさせるとともに、社内の成果を対外に公表する場ともなっていった。

このように積極的に活動を継続した結果、2014年の地図展優秀賞受賞(地図学会)を皮切りに、数々の優秀発表賞や論文賞を獲得することにも繋がっていった。なかでも2017年および2020年の測技協「先端測量技術」へ投稿した論文における会長賞受賞は、当社の技術力と探究心の高さが認められた輝かしい成果である。これに満足せず、社内では次なる成果発表に向けた研究活動も着々と進んでいる。